背景

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行初期においては、一類・二類感染症患者等の入院診療を行う「感染症指定医療機関」を中心に対応が行われました。一方で、COVID-19患者の入院先が必ずしも臨床研究の実施機関とならず、臨床試験の実施に困難が生じたという課題がありました。また、ワクチンや治療薬の開発に対する平時からの産官学連携での取組み等が十分ではなかった結果、国産ワクチンや治療薬の実用化に海外よりも時間を要することになりました。

これらの課題に対して、感染症の科学的知見の創出や医薬品等の研究開発を行うために、令和3年度に新興・再興感染症データバンク事業ナショナル・リポジトリ(REBIND)が構築され、試料・データを収集・保管し、利活用希望者への提供を開始しました。令和6年度からはREBINDを発展的に拡張する形で感染症臨床研究ネットワークiCROWN(Infectious Disease Clinical Research NetwOrk With National Repository)が構築され、感染症危機発生時に備え、平時より医療機関や自治体等と連携し、多施設で感染症の臨床研究を実施できる体制を整えてきました。

令和7年度からは、感染症の発生状況やその影響を速やかに把握し対策を講じることができるように、研究実施機関となる特定・第一種感染症指定医療機関が、学術的に研究の遂行を支援する研究推進機関や、試料・データの収集を支援する準研究実施機関の協力を得ながら、臨床研究をさらに推進できる体制を整えていきます。

  • 参加医療機関から検体、臨床情報等(以下、「試料・データ」)を前向きに収集・保管(リポジトリ)
  • 利活用を希望する研究者等に提供
  • 対象感染症は当初、COVID-19のみであったが、その後原因不明小児肝炎、エムポックスも追加
  • REBINDを発展的に拡張する形で、「感染症臨床研究ネットワーク事業」を開始
  • これまでREBINDで行ってきたことに加え、
    ①平時より医療機関や自治体等と連携し、
    ②多施設で感染症の臨床研究を実施できる体制を整備
  • 研究実施機関は、全国で14医療機関(特定・第一種感染症指定医療機関)
  • 対象感染症は、重症急性呼吸器感染症(COVID-19を含む)、エムポックス、原因不明小児肝炎、入国時感染症ゲノムサーベイランスの試料
  • 研究実施機関は、4つの特定感染症指定医療機関+各都道府県に1つの第一種感染症指定医療機関を目指す
  • 研究推進機関、凖研究実施機関の協力も得る
  • 試料・データを提供し保管するためのリポジトリを維持
  • 対象感染症は、さらに拡大予定

事業内容

●感染症に関する医薬品の研究開発に協力可能な医療機関(感染症指定医療機関等)とネットワークを構築します。​

●感染症危機時の研究開発の課題を網羅的に同定し、共有します。

●感染症危機発生時に迅速に対応できる研究開発体制を構築します。

●感染症の臨床研究に関する諸活動を統合的に運用します。

●参加医療機関からiCROWNのリポジトリに収集された一部の試料・データを、利活用を希望する製薬企業・研究者に提供します。

iCROWNの実施体制

iCROWNの運営母体

国立健康危機管理研究機構(JIHS)は令和7年度に国立国際医療研究センターと国立感染症研究所が統合して設立されました。
iCROWN事業はJIHSが厚生労働省より受託し、運営を担います。

感染症危機発生時に期待されること

感染症危機発生時には、根拠のある対策を迅速に実施するため、速やかに必要な情報(試料・データ等)を収集し、病態解明や感染症対策等に資する科学的知見の創出が期待されます。
また、感染症臨床研究ネットワークを活用した多施設での迅速な医薬品等の臨床試験(治験)の立ち上げや、収集した試料・データを希望する製薬企業・研究者へ提供を行うことにより、国内における迅速な医薬品等の実用化につながることが期待されます。

対象感染症

2025年6月現在のiCROWNの対象感染症は、以下の通りです。

  • 重症急性呼吸器感染症(新型コロナウイルス感染症を含む)
  • エムポックス
  • 原因不明小児肝炎
  • 入国時感染症ゲノムサーベイランスの試料

※第96回厚生科学審議会感染症部会(2025年6月12日)において、重点感染症が対象感染症に追加されることが承認された。iCROWN事務局において、収集体制等が整い次第、運用を開始する。

参加医療機関

iCROWNに参加または参加に合意している医療機関(令和7年6月現在)

令和6年度は特定・第一種感染症指定医療機関14施設の参加を得て、感染症臨床研究ネットワークを構築してきました。令和7年度はさらに下記の研究実施機関、研究推進機関、準研究実施機関の参加合意を得て、感染症臨床研究ネットワークを拡大しています。
(許可をいただけた医療機関のみ掲載しております。)

1)研究実施機関

無印:第一種感染症指定医療機関 【特】:特定感染症指定医療機関
※法人名・機構名は省略しています

自治体名研究実施機関自治体名研究実施機関
北海道市立札幌病院滋賀県市立大津市民病院
青森県青森県立中央病院京都府京都府立医科大学附属病院
宮城県東北大学病院大阪府大阪市立総合医療センター
秋田県秋田大学医学部附属病院【特】りんくう総合医療センター
山形県山形県立中央病院兵庫県神戸市立医療センター中央市民病院
福島県福島県立医科大学附属病院奈良県奈良県立医科大学附属病院
栃木県自治医科大学附属病院和歌山県日本赤十字社和歌山医療センター
群馬県群馬大学医学部附属病院岡山県岡山大学病院
埼玉県埼玉医科大学病院広島県広島大学病院
千葉県国際医療福祉大学成田病院香川県香川県立中央病院
【特】成田赤十字病院愛媛県愛媛大学医学部附属病院
東京都東京都立駒込病院高知県高知県・高知市病院企業団立高知医療センター
【特】国立国際医療センター福岡県福岡東医療センター
神奈川県横浜市立市民病院佐賀県佐賀県医療センター好生館
富山県富山県立中央病院長崎県長崎大学病院
長野県長野県立信州医療センター熊本県熊本市立熊本市民病院
静岡県静岡市立静岡病院宮崎県宮崎県立宮崎病院
愛知県日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院鹿児島県鹿児島大学病院
【特】知多半島りんくう病院沖縄県琉球大学病院

【医療機関登録要件(抜粋)】研究実施機関

  • 厚生労働省、都道府県等(自治体・保健所等)と連携して患者の受け入れを行う特定・第一種感染症指定医療機関であること
    ※特定感染症指定医療機関は、厚生労働省が指定。第一種感染症指定医療機関は、都道府県が推薦
    ※原則、各都道府県に1医療機関。ただし、特定感染症指定医療機関を持つ都府県は、特定感染症指定医療機関に加え、第一種感染症指定医療機関を加えることができる
  • 感染症法に基づく予防計画による新型インフル等感染症の外来及び入院の受け入れ体制が確保されていること
  • 平時より、ネットワークを活用した臨床研究を行うとともに、定期的な研修・訓練に参加できること
  • 有事にも、臨床研究に積極的に参加する意向があること
  • 以下のいずれかに該当すること:
    1. 自院で臨床研究を遂行する能力を確保する意向がある
    2. 自院のリソースで臨床研究の遂行が困難な場合は、 研究推進機関と支援契約を締結する意向がある
  • 感染症臨床研究ネットワーク(iCROWN)事業リポジトリ実施計画書に合意していること
  • 本事業の施設協議会に参加すること

    2)研究推進機関

    ※法人名・機構名は省略しています

    研究推進機関
    北海道大学病院横浜市立大学附属病院 ※リポジトリ研究も実施予定
    国立がん研究センター東病院名古屋大学医学部附属病院 ※リポジトリ研究も実施予定
    慶應義塾大学病院藤田医科大学病院
    国立がん研究センター中央病院大阪大学医学部附属病院
    順天堂大学医学部附属順天堂医院九州大学病院
    聖マリアンナ医科大学病院 ※リポジトリ研究も実施予定

    【医療機関登録要件(抜粋)】研究推進機関

    以下の要件を満たした医療機関からのNW事業の参加申出とする

    • 感染症法に基づく医療措置協定(※)を結んだ医療機関において各地域におけるネットワーク(ARO機能等)を有し、1)研究実施機関と平時より連携のとれる医療機関であること ※医療措置協定において 病床確保と医療人材派遣が可能な医療機関
    • 支援を必要とする研究実施機関の臨床研究を、科学的・技術的観点からの支援や、実施に係る業務支援が行える医療機関であること
      ※支援する研究実施機関は、研究実施機関のニーズ・研究推進機関のシーズ・地理的な条件、等をもとに、事務局にて決定する
    • 臨床研究の研究代表者(PI)にもなる体制を保持していること、臨床研究中核病院であることが望ましい
    • 有事にも、臨床研究に積極的に参加する意向があること
    • 事務局と連携し、臨床研究の支援を行うこと
    • 本ネットワークの、パンデミックにも備えた平時からの戦略会議に参加すること
    • 支援を行う旨の合意を締結することが可能であること

      3)準研究実施機関

      準研究実施機関
      独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)北海道病院聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
      地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院独立行政法人 国立病院機構(NHO)信州上田医療センター
      医療法人 徳洲会 古河総合病院独立行政法人 労働者健康安全機構(JOHAS)旭ろうさい病院
      国立健康危機管理研究機構(JIHS)国立国府台医療センター地方独立行政法人 堺市立病院機構 堺市立総合医療センター
      東京大学医科学研究所附属病院医療法人 徳洲会 福岡徳洲会病院
      帝京大学医学部附属病院社会福祉法人 恩賜財団 済生会熊本病院
      地方独立行政法人 東京都立病院機構 東京都立墨東病院独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)人吉医療センター

      【医療機関登録要件(抜粋)】準研究実施機関

      • 都道府県の推薦があり研究実施機関と平時から連携が取れていること
      • 厚生労働省、都道府県等(自治体・保健所等)と連携して患者の受け入れを行う流行初期医療確保措置の対象施設であること
      • 本事業で実施する研究に対して、症例検体の登録を行う意向があること
      • 感染症臨床研究ネットワーク(iCROWN)事業リポジトリ実施計画書に合意していること

      事業責任者

      国立健康危機管理研究機構 理事長 國土 典宏